Thursday, June 5, 2008

Good to be competitive? 〜コンクール@ウィグモア・ホール〜

5月4日 ウィグモア・ホールにて At Wigmore Hall

2008年度 歌手のためのリヒャルト・タウバー・プライズ、公開ファイナル
Public Final Audition of the 2008 Richard Tauber Prize for Singers

主催:アングロ−オーストリアン音楽協会


隔年開催されている、リヒャルト・タウバー・プライズはイギリスとオーストリアの音楽院で学ぶ声楽科の学生にとって(少なくともロンドンの音楽院では)かなり重要なコンクールの一つです。それというのも最優秀賞は、£5000の賞金に加え、ウィグモア・ホールでのリサイタルが副賞として与えられるからです。予選は、ロンドンとウィーンで行われ、本選は公開ファイナルとしてウィグモア・ホールで行われます。

本選に残ったのは、10名の歌手。

ソプラノ、4名
メゾ・ソプラノ、1名
テナー、1名
バリトン3名
カウンターテナー、1名

7名がロンドンから、3名がウィーンからとなっていました。当たり前ですが、所属/出身校は、ロンドンとウィーンの名門校の名前、特にロイヤルカレッジ・オブ・ミュージック(ロンドン)とウィーン芸術大学ばかりが連なっていました。

リヒャルト・タウバーは第二次世界大戦前後にロンドンで活躍したユダヤ系オーストリア人のテナー歌手で、歌曲、オペラのみならず、オペレッタや作曲家としても活躍していた最中、1948年に56歳という若さで亡くなりました。ナチス・ドイツを逃れてロンドンに移り住んだオーストリア人音楽家とそれを支援するイギリス人によって設立された、アングロ−オーストリアン音楽協会はそんな彼の思い出を記念すべく、このコンクールを1951年に創立しました。

といういきさつ上、このコンクールでは、本選は、オペラアリアと歌曲をそれぞれ一曲ずつ披露する事になっていました。

最優秀賞を受賞したのは、南アフリカ人カウンターテナー、クリストファー・アインズリー Christopher Ainslie でした。彼が歌ったのは、イギリス人作曲家ジョナサン・ドーヴのオペラ「フライト」からのアリアとシューベルトのノクターン Nachtstück でした。

彼はたしかに他の歌手より頭一つ分抜け出ていました。だから、この結果は理解できます。

しかし、、、リヒャルト・タウバー・プライスは、審査員長も受賞発表の時に言っていましたが、シューベルト、シュトラウス、ヴォルフを生んだオーストリアだけに、ドイツ歌曲の普及に力を入れているはず。いくら優秀な歌手でもカウンターテナーが、歌える歌曲には限りがあります。声にはあうあわない領域というものがあって、今回のファイナリストの中でも、???という選曲をした人もいましたが、それにしても、、、審査は、本音と建前と、政治的判断といろいろ絡んだのであろうなというのがみえみえでした。

こんどは、彼の歌を彼のレパートリーで聴いてみたいです。シューベルトでなくってね。

二位を受賞したこれまた南アフリカ人ソプラノのサラ・ジェーン・ブランドン Sara-Jane Brandon は、その美しい持ち声でそつなく、シュトラウスのチェチーリエ Cäcilie とルサルカのアリア(ドヴォルザーク)を歌い上げて納得の受賞。また聴いてみたい歌手の一人となりましたが、もう少しスリムになったほうが歌いやすそう。歌っていて息が切れるのはどうも…。見た目もそこそこ大事だと思います。

受賞は逃しましたが、「フィガロの結婚」から躍動感に溢れる伯爵のアリアと、その対極にあるブラームスの子守唄 Wiegenlied を歌ったジェラード・コレットGerard Collett は、オペラと歌曲の両方で多彩な才能をみせて、これからが非常に楽しみな歌手です。(ちなみにダイドーとエネアスに出演していたローナン・コレットは、双子の兄弟です。)

同じく受賞を逃したオーストリア人ソプラノ、ニーナ・バーンシュタイナー Nina Bernsteiner は、選曲と伴奏者が良くなかったようで、よく伸びる美しい声の持ち主だけに残念でした。ドイツ語が母国語だとはいえ、やはりシューベルトの「魔王」は男声用の曲だと思いを新たにしました。冒険はほどほどに!

イギリスは比較的「伴奏者」Accompanistという分野が確立されていて、素晴らしい伴奏者が沢山活躍しているのですが、やはり今回のコンクールでも、イギリス側の伴奏者の質の高さが際立っていました。伴奏者賞を受賞したジェームズ・ベィユー James Baillieu は、(またまた南アフリカ出身!そういう土壌があるのかしら?)これまで何度か聴いた事がありますが、テクニックの確かさと、表現の幅の広さがすごく、いつ聴いても安定した演奏で、歌手もとても歌いやすそうでした。

個人的にコンクールは、受ける方の立場でも、聴く方の立場でも好きではないのですが、今から伸び盛りの若い歌手たちがウィグモア・ホールという素晴らしいホールで、一生懸命自分のベストを尽くす姿は、コンサートとして非常に見応えがありました。

しかしこの10人の歌手たちが一体どこまでプロとして活躍していけるのだろうか…と考えると複雑なものがあります。歴代の30人の優勝者の名前を見ても、見覚えがあるのは、数人のみ。このコンクールのファイナリストたちとくるとそれだけで300人を超えます。クラシックの本場ヨーロッパとはいえ、プロの道は大変厳しそうです。



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