Monday, June 16, 2008

The radio 3 Lunchtime concert @ Wigmore Hall

6月16日
ラジオ3ランチタイム・コンサート

ジェラルド・フィンリー Gerald Finley    baritone
ジュリアス・ドレーク Julius Drake    piano

曲目:

シューマン
ハイネの詩による歌曲
悲劇・哀れなピーター・きみの頬を私の頬によせて・私の愛はきらめき・きみの顔はとても愛らしくて美しい・わたしのカートはのろのろと

Tragödie I - III • Der arme Peter • Lehn' deine Wang • Es leuchtet meine Liebe • Dein Angesicht • Mein Wagen rollet langsam 

「ミルテの木」より3つの歌
蓮の花・この孤独な涙は何を意味するのだろう・きみは花のようだ

Die Lotosblume • Was will die einsame Träne? • Du bist wie eine Blume 

グリーグ
Op. 48より5つの歌
挨拶・いつか、あぁ私の心よ・世界のありかた・薔薇のときに(甘美な薔薇よ、きみたちは待っている)・夢

Gruß • Dereinst, Gedanke mein •Lauf der Welt • Zur Rosenzeit • Ein Traum

シューマン
ハイネの詩による歌曲
敵対する兄弟たちよ・浜辺の夜・兵士たち・ベルシャザル

Die feindlich Brüder • Adends am Strand • Die beiden granadiere • Belsazar

アンコール
アィヴス
私は恨んではいない Ich grolle nicht
******************************************************
✩✩✩✩✩

ハイネの詩によるシューマンの数々の歌曲は、ドイツ歌曲の演奏会と言えば、定番でもありますが、ジェラルド・フィンリーの少し陰りを帯びた男性的で美しい声で歌われると、恋に敗れる男性の悲哀がひと際濃く出ていて、非常に聴きごたえがありました。

シューマンの「詩人の恋」は創られた当時20曲からなっていて、紆余曲折があって4年後に出版の際、4曲が外されて16曲となったのですが、「きみの頬をわたしの頬によせて、わたしの愛はきらめき、きみの顔はとても愛らしく美しい、わたしのカートはのろのろと」がその4曲にあたり、これらは後年それぞれOp. 142 No. 2, Op. 127 N.3, No. 2, Op. 142 No. 4として出版されました。これらの4曲は、独立した曲としては少しインパクトに欠ける気もしましたが、それぞれ流れるような旋律とピアノ伴奏の美しさが際立っていました。

「ミルテの木」からの3曲は、私的にこのコンサートの中で一番印象に残りました。かなわない恋をこんなにも優しく美しく語れるものなのなのでしょうか。ロバートからクララへの結婚祝いに贈られたこの歌曲集は、幸福感だけでなく恋や愛の不条理さもぎゅっと詰まっていて、彼の盲目的といえる愛が感じられます。

グリーグは、「薔薇のとき」と「夢」が特に有名で、その流れるような美しいピアノ伴奏と相まって、甘美な痛みのようなものを感じさせるとてもロマンチックな曲でした。「夢」は、もはや歌曲というよりはアリアを聴いているような迫力で耳がびりびりしました。

ジェラルド・フィンリーの歌は、旋律線が非常になめらかで、声を自由に扱っている様が、やはり第一線で活躍する歌手たる所以でしょう。オペラだけでなく歌曲のコンサートにも力を入れていて、それもドイツ歌曲からフランス歌曲、イギリス・アメリカ歌曲と、そのどれもがきちんと歌われていて、いつ聴いてもとても満足のいくのが凄いです。

ジュリアス・ドレイクは、大活躍中のピアノ伴奏者ですが、その演奏ぶりは、派手さには欠けるものの、いつ聴いてもテクニックの確かさと解釈の深さには大満足です。イギリスに来て、「ピアノ伴奏者」という位置が、予想していたよりかなり確立されていて驚いたのですが、いくつかのマスタークラスや講習会に参加してみて、彼らの学識の深さとピアニストとしてのテクニックの高さに、非常に感銘を受けました。

このコンサートは、BBC Radio 3のホームページ上で、7日間聴く事ができます。聴いてみたい方はこちらから。(注意!始まって4分くらいからコンサート開始です。)



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Thursday, June 5, 2008

Good to be competitive? 〜コンクール@ウィグモア・ホール〜

5月4日 ウィグモア・ホールにて At Wigmore Hall

2008年度 歌手のためのリヒャルト・タウバー・プライズ、公開ファイナル
Public Final Audition of the 2008 Richard Tauber Prize for Singers

主催:アングロ−オーストリアン音楽協会


隔年開催されている、リヒャルト・タウバー・プライズはイギリスとオーストリアの音楽院で学ぶ声楽科の学生にとって(少なくともロンドンの音楽院では)かなり重要なコンクールの一つです。それというのも最優秀賞は、£5000の賞金に加え、ウィグモア・ホールでのリサイタルが副賞として与えられるからです。予選は、ロンドンとウィーンで行われ、本選は公開ファイナルとしてウィグモア・ホールで行われます。

本選に残ったのは、10名の歌手。

ソプラノ、4名
メゾ・ソプラノ、1名
テナー、1名
バリトン3名
カウンターテナー、1名

7名がロンドンから、3名がウィーンからとなっていました。当たり前ですが、所属/出身校は、ロンドンとウィーンの名門校の名前、特にロイヤルカレッジ・オブ・ミュージック(ロンドン)とウィーン芸術大学ばかりが連なっていました。

リヒャルト・タウバーは第二次世界大戦前後にロンドンで活躍したユダヤ系オーストリア人のテナー歌手で、歌曲、オペラのみならず、オペレッタや作曲家としても活躍していた最中、1948年に56歳という若さで亡くなりました。ナチス・ドイツを逃れてロンドンに移り住んだオーストリア人音楽家とそれを支援するイギリス人によって設立された、アングロ−オーストリアン音楽協会はそんな彼の思い出を記念すべく、このコンクールを1951年に創立しました。

といういきさつ上、このコンクールでは、本選は、オペラアリアと歌曲をそれぞれ一曲ずつ披露する事になっていました。

最優秀賞を受賞したのは、南アフリカ人カウンターテナー、クリストファー・アインズリー Christopher Ainslie でした。彼が歌ったのは、イギリス人作曲家ジョナサン・ドーヴのオペラ「フライト」からのアリアとシューベルトのノクターン Nachtstück でした。

彼はたしかに他の歌手より頭一つ分抜け出ていました。だから、この結果は理解できます。

しかし、、、リヒャルト・タウバー・プライスは、審査員長も受賞発表の時に言っていましたが、シューベルト、シュトラウス、ヴォルフを生んだオーストリアだけに、ドイツ歌曲の普及に力を入れているはず。いくら優秀な歌手でもカウンターテナーが、歌える歌曲には限りがあります。声にはあうあわない領域というものがあって、今回のファイナリストの中でも、???という選曲をした人もいましたが、それにしても、、、審査は、本音と建前と、政治的判断といろいろ絡んだのであろうなというのがみえみえでした。

こんどは、彼の歌を彼のレパートリーで聴いてみたいです。シューベルトでなくってね。

二位を受賞したこれまた南アフリカ人ソプラノのサラ・ジェーン・ブランドン Sara-Jane Brandon は、その美しい持ち声でそつなく、シュトラウスのチェチーリエ Cäcilie とルサルカのアリア(ドヴォルザーク)を歌い上げて納得の受賞。また聴いてみたい歌手の一人となりましたが、もう少しスリムになったほうが歌いやすそう。歌っていて息が切れるのはどうも…。見た目もそこそこ大事だと思います。

受賞は逃しましたが、「フィガロの結婚」から躍動感に溢れる伯爵のアリアと、その対極にあるブラームスの子守唄 Wiegenlied を歌ったジェラード・コレットGerard Collett は、オペラと歌曲の両方で多彩な才能をみせて、これからが非常に楽しみな歌手です。(ちなみにダイドーとエネアスに出演していたローナン・コレットは、双子の兄弟です。)

同じく受賞を逃したオーストリア人ソプラノ、ニーナ・バーンシュタイナー Nina Bernsteiner は、選曲と伴奏者が良くなかったようで、よく伸びる美しい声の持ち主だけに残念でした。ドイツ語が母国語だとはいえ、やはりシューベルトの「魔王」は男声用の曲だと思いを新たにしました。冒険はほどほどに!

イギリスは比較的「伴奏者」Accompanistという分野が確立されていて、素晴らしい伴奏者が沢山活躍しているのですが、やはり今回のコンクールでも、イギリス側の伴奏者の質の高さが際立っていました。伴奏者賞を受賞したジェームズ・ベィユー James Baillieu は、(またまた南アフリカ出身!そういう土壌があるのかしら?)これまで何度か聴いた事がありますが、テクニックの確かさと、表現の幅の広さがすごく、いつ聴いても安定した演奏で、歌手もとても歌いやすそうでした。

個人的にコンクールは、受ける方の立場でも、聴く方の立場でも好きではないのですが、今から伸び盛りの若い歌手たちがウィグモア・ホールという素晴らしいホールで、一生懸命自分のベストを尽くす姿は、コンサートとして非常に見応えがありました。

しかしこの10人の歌手たちが一体どこまでプロとして活躍していけるのだろうか…と考えると複雑なものがあります。歴代の30人の優勝者の名前を見ても、見覚えがあるのは、数人のみ。このコンクールのファイナリストたちとくるとそれだけで300人を超えます。クラシックの本場ヨーロッパとはいえ、プロの道は大変厳しそうです。



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